インターネットの基本「IANA」について変化があるようです。
インターネットで日常的に使っているドメイン名は、だれが管理しているか考えたことがありますか?それらも、ちゃんと管理している人がいるのです。そんな、インターネットの基盤となる部分をつかさどっている組織「IANA」が変化しようとしているようです。
細かくは、以下のURL(長いです)を見ていただきたいですが、一部を抜粋して紹介します。
日本インターネットガバナンス会議(IGCJ)が3月11日、ICANN(Internet Corporation For Assigned Names and Numbers)のTheresa Swinehart氏による講演会を一般社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)において開催した。
Swinehart氏は、戦略に関する事務総長への上級アドバイザーとして、ICANNの戦略計画を統括するとともに、ICANNのステークホルダーや政府関係者との調整・交渉を担当している。講演では「IANA監督権限移管とICANNのアカウンタビリティをめぐる動向」というテーマで、ICANNの置かれた環境の話などを含めながらこれら2つの案件が説明された。
IANA監督権限移管とICANNのアカウンタビリティとは何か?
まず、今回の主要な話題であるIANA監督権限移管とICANNのアカウンタビリティ(説明責任)について簡単に整理する。
IANA(Internet Assigned Numbers Authority)とは、DNSルートゾーンやドメイン名、IPアドレス、AS番号、プロトコル番号など、インターネット資源のグローバルな管理を行ってきた、南カリフォルニア大学のJon Postel(Jonathan B. Postel、1943-1998)氏を中心としたプロジェクトグループの名称である。IANAというプロジェクトグループが行ってきた資源管理は、2000年2月にICANN、南カリフォルニア大学、米国政府の3者の合意によりICANNに引き継がれた[*1]。現在では、ICANNにおける資源管理、調整機能の名称として使われている。
ドメイン名やIPアドレスといったインターネットの資源、およびドメイン名とIP アドレスを対応付けるDNS機能はインターネットにとってとても重要な要素であるため、その管理および監督権限のありかは常に議論の対象となってきた。中でも、2003年12月にスイスのジュネーブ、2005年11月にチュニジアのチュニスで開催された世界情報社会サミット(World Summit on the Information Society:WSIS)においてクローズアップされたインターネットガバナンスの問題は、今でも形や場所を変えながら延々と議論が続いている。その内容とは、中国、ロシア、インド、中東地域、アフリカ地域の国々などが、米国およびICANNを中核とするインターネット管理体制を批判し、より各国政府の関与が可能な、国連やITUのもとでの管理体制の構築を主張するというものである。 インターネットは、米国防総省高等研究計画局(Advanced Research Projects Agency:ARPA)の資金提供を受けたネットワークとして誕生し、米国を中心として成長してきた[[*2]][2]。そのため、現在でも米国商務省電気通信情報局(National Telecommunications and Information Administration:NTIA)が、ICANNとの間で結んだ「IANA契約」を根拠として監督権限を有している。 IANA機能がICANNに引き継がれて以降、インターネットの資源管理はICANNによって行われてきたわけだが、そのような中、やや唐突に変化の兆しが現れた。 NTIAが2014年3月14日に、IANA機能に対する監督権限をグローバルなマルチステークホルダーコミュニティに移管する用意があると表明したのである[[*3]][3]。そして、その表明の中でICANNを、移管後の体制を提案する検討を行うための「呼び掛け人(Convener)」に指名している。 それを受けてICANNは、移管後の体制を検討し提案するために、ICANNの外部にIANA Stewardship Transition Coordination Group(ICG)を組成し、活動を始めている。ICGの方針は、資源ごとのコミュニティに検討を委ね、調整に徹するというものである。そして、それらのコミュニティ(ドメイン名、IPアドレスなどの番号資源、プロトコルパラメーターの3つ)の案を統合して提案を作成し、NTIAに提出することになっている。 また、それとは別に、米国政府が監督をしなくなった場合、IANAが適切に運営されるのかという点も問題になる。アカウンタビリティの議論は、IANA機能の運営者であるICANNが信頼に足る組織であることをどのように説明できるかということに対するものである。この点はとても重要なため、「ICANNのアカウンタビリティ」として監督権限の移管とは別に議論が行われている。 ### ドメイン名グループの大幅な遅れが不安要素か? Swinehart氏の発表は、プレゼンテーション資料を丁寧に説明していくものであった。冒頭で今回の主要な話題であるIANA機能に対する説明を行った直後に、「よく知った顔がいらっしゃったので」として聴衆側で参加していた数名に発言を求めてマイクを渡すなどしたが、受けた側もこれまでのいきさつなどに関する話をすることで多方面での意見を聞ける形となった。以降、重要と考えられる点にポイントを絞って報告する。 ### IANA監督権限移管に関する状況注目すべきはその下の文である。“not”の文字に強調が入り、「他の政府、または政府間組織がこの役割を行うことは受け入れられない」としっかり書いてある。これは、NTIAが当初より「移行計画案が、政府主導あるいは政府間組織による構成である場合、提案を受け入れない」ことを明言していることによるものだろう。
余談めくが、2015年2月8日からシンガポールにおいて開催された「第52回ICANN会合(ICANN 52)」では、NTIAのLarry Strickling長官が「ドメイン名のコミュニティにおける検討状況は、直接IANA機能に関係のない要素を検討しようとするあまり物事を複雑にしており、説明責任について検討しているワーキンググループと同じ課題を重複せずに検討を進めていくことが重要」という発言を行っている。これは、CWG-Stewardshipにおいて、IANA機能におけるICANNの説明責任を担保する仕組みの検討などが行われ、管理を米国から引きはがそうとする動きや、監督権限の移管は進めるべきなのかといった前提に立ち戻った質問が行われていることをけん制する意図があったからと思われる。このような状況は、CWG-Stewardshipメンバーに帰すべき問題だと感じるが、いずれにしてもICANNにとって悩ましい状況なのではないだろうか。 現在のIANA契約が満了する2015年9月までにNTIAが提案を受領する形を目指していること、提案は3つ同時にそろえて提出する必要があるとNTIAが公言していることを考えれば、CWG-Stewardshipの遅れは影響が大きいものとなるかもしれない。 ### ICANNのアカウンタビリティに関する状況1)「ICANNの説明責任強化に関するコミュニティ横断ワーキンググループ(CCWG-Accountability:Cross Community Working Group on Enhancing ICANN Accountability)」を設立
2)議題を以下に示す2つの「Work Stream」に分離
「Work Stream 1」は、IANA機能の監督権限移管までに解決すべき課題を扱い
「Work Stream 2」は、IANA機能の監督権限移管に間に合わせる必要はないが、その後も長期的に解決すべき課題3)外部アドバイザーの参加
4)ICANNボードの役割
ここで重要なのが、2)の点である。NTIAからは、IANA機能の監督権限移管による影響を受けるものについては、その対応案をIANA機能の監督権限移管に関する提案と同期して提出することを求められている。ICANNのアカウンタビリティに関する課題は数多くあると考えられるが、それを2つのストリームに分けたことで、ICANNのアカウンタビリティが明確にならない限りIANA機能の監督権限移管の提案ができない――という事態を避けられることになった。
「未来を作って行くのはコミュニティの皆さま」
発表後の質疑応答では、特に米国政府との関係とドメイン名コミュニティ(CWG-Stewardship)の進ちょくの遅れに対して質問が集中した。そのような質問が出る背景には、この機会に乗じてインターネットの資源管理を米国から奪い取ってしまおうとする動きをする人々が混乱を招いていると感じる人々の多さがある。
Swinehart氏は、それらの点について次のように答えている。
「重要なことは、きちんと検討を重ねた結果(提案)をNTIAに提出することです。」
「オープンインターネット、マルチステークホルダーモデルが実現されているか、単一の政府に支配されてしまうことがないこと、安全性・安定性・柔軟性、これらの基準に立ち返ってそれらを満たしているか、そうしたことを確認しながら進めることが重要だと考えています。」
「ドメイン名コミュニティは、他のコミュニティに比べると多様な参加者がいることは確かです。参加者が幅広いことで、時間がかかっているように思われます。コミュニティそれぞれのやり方があり、それを尊重することが必要だと考えています。」
質疑応答の後、Swinehart氏から会場に対して「移管を完成させるためには、皆さんにとって何が重要なのかをお伺いしたい」という投げ掛けが行われた。そこでは、「全体として、ICANNは良い仕事をしている」「ICANNは、他の国際的な組織と比べても、その透明さとアカウンタビリティは秀でている。政治的にも中立なのは良い」という点からの意見が多かったが、「アカウンタビリティを口実に、自分たちに都合のいいような仕組みを作りたがる人がいる。大事なのは、今のICANNを肯定して、改善すべきところは改善するということだろう。変えようとするあまり、すでに機能しているものを壊すことにならないようにしてほしい」といったコメントも出された。
報告を終えるにあたって、Swinehart氏のメッセージをまとめてみた。今のICANNの考え方が明確に示されている。
「1998年のICANN設立以来、DNSの安定・安全・柔軟性は、マルチステークホルダー・民間主導という考え方のもと、コミュニティの皆さまによって維持されてきています。IANAの移管・アカウンタビリティのプロセスは、今すでに機能しているマルチステークホルダー・民間主導による成果を、今後さらに長期にわたり強化し、確固たるものとするためにあります。これらのプロセスを作り、それを進めていくのはICANNという組織ではなく、コミュニティの皆さまです。特に、日本のコミュニティについては、インターネットの黎明期からこの世界に深く参画されていることを、よく存じ上げています。この件についても、引き続き日本の皆さまの優れた知見をいただきたいと考えています。今後、公開で意見募集などもあると思います。その際は、ご意見をいただけますようお願いいたします。」
以前より言われてきた管理体制がようやく変化してくるようです。実際は、どちらがよいのかということは難しい問題ではありますが、止まらない運用ができるならなおベターだと思います。